「ショート ショート」 08
「Yという女」その 2
まだゲスト全員がホテルへ招待される1日前のことであった。
本日の行事はNMAとサミッターとの夕食会である。会場はタメル中ほどのレストラン。
専用バスは町の入口に到着した。最初に降りると小さなかわいい子供たちが、手に手に歓迎の花輪を持って並んでおり、下車したメンバーに花輪をかけてくれる。
本日は車両通行が規制され、両側の歩道には観客が鈴なりである。
「バーバーさん」と女性の声がかかる。このようなところで声をかけてくる女性がいるわけはない。
しかも日本人である。よく見るとYだ。そこで、「こちらへ出てきなさい。一緒にゆくから」と、
「でも私招待されていない」というので、「心配ない。ワイフで通すから大丈夫」といって同行させる。
そのときであった。1人のネパール人が手すりを乗り越え走ってきて、「一緒に写真を撮ってくれ」という。
サミッターと勘違いしているのでは思って躊躇していると、彼女いわく、
「いいじゃない。撮られてあげなさい。彼は日本人の貴方と撮りたがっているのだから」と平然という。これには驚いた。彼女に押し出されるようにそのネパール人と撮影した。
彼はよろこんで、「ダンネバード(ありがとう)」と握手をして、そうそう歩道へ立ち戻った。
警備の厳しい中である。
気弱なバーバーはそのことを引きずりながら、彼女と列の最後のほうを進んでいった。
途中から人垣は狭まり、人垣の中を掻き分けて歩くような状態になる。 大変な人の輪である。
会場レストラン前では、警備の警官と軍の兵士が立ち、招待状のチェックに余念がない。
なかなか厳重なチェックである。招待状を提示して、
「メロ、ブディ(私の女房)」というと、敬礼してさっさと通してくれた。
カードと首にかけられた花輪が物をいったのであろうと想像する。
一息ついて彼女の手先を見ると、ハンド・バッグがぱっくり口を開けている。
「Y、ハンド・バッグの口が開いているぞ」と呼び捨てになった。
「えっ」と見た途端。「ヤラレタ」と叫ぶ。
先ほどのもみくちゃの際、どさくさに紛れて掏り取られたのであろう。
「現金はどれくらい入れていたのか? クレジット・カードは? その他大事なものは?」とたて続けに訊ねる。
だがショックからか反応が鈍い。
そこで、「Y、もう一度念のため先ほどのところまで探しにもどれ、ないだろうが。電話でクレジット停止の手配と、その他済ませて戻って来い。ここで待っているから」といって探しに戻らせた。
サンタが来たので事情を伝えて一緒に待ってもらう。 約20分後戻ってきた。
「やはりありません。現金はたいした額ではないからあきらめます。クレジットは手配してもらいました。ただ今晩からチェックインするホテルのキイも一緒に入れてありました」というので、サンタにホテルへ電話してキイの交換と現在のナンバーを停止するよう連絡させる。
こうしてようやく遅れて食事にありつくことになった。
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